こんにちは、ジメツです。
これから商標登録をしようとしているなら、あるいは商標登録が完了したなら、商標について最低限知っておかなきゃいけないことがあります。
この記事を読めば、
商標にはどのような形式や種類があるのか
商標を登録するための手続きや条件、商標権の範囲や保護期間
商標権を侵害する行為や紛争が起きた場合、どのような対策や法的手段があるのか
といった、少なくとも知っておくべき商標の基礎知識を学ぶことができます。
今まで知らなかったこと、誤解していたことなど、知識のアップデートやブラッシュアップにお役立てください。
商標の基本
ざっくりと、商標とは
商標とは、
会社のロゴ、マークであったり、
オリジナルの商品名、ネーミングであったり、
オリジナルのサービス名などを表示するものです。
自分(自社)が取り扱う商品・サービスと他人(他社)のものとを区別するための識別標識です。
例えば、2台のスマートフォンがあったとします。
リンゴのマークが表示されたスマホはアップル社のもの
Gのマークが表示されたスマホはグーグル(アルファベット)のもの
というように区別して消費者にわかりやすくしています。
商標は「もの言わぬセールスマン」
事業者は商標を通じて自社の商品・サービスを消費者にアピールします。
広告宣伝したり、営業努力によって消費者の信用を積み重ねていくことで、商標の信用度がアップし、ブランドイメージが形成されていきます。
すると、消費者は商標を見ただけで、
「この商品は安心だ」
「このサービスは間違いない」
といった判断をしてくれるようになります。
ですので、商標は「もの言わぬセールスマン」とも呼ばれており、商品やサービスの顔として重要な役割を果たすものになります。
商標制度は、事業者が商品やサービスに付ける商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図ることを通じて、産業の発達に寄与するとともに需要者の利益を保護することを目的としています(商標法第1条)。
商標は法律で定義されている
商標法第2条1項には、
この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
と規定されています。
例えば、文字だったり、マークだったり、そのもの単体のことを「標章」と言います。
「標章」を商品について使うと、その「標章」は「商標」になります。
同じく、「標章」を役務(えきむ)について使うと、その「標章」は「商標」になります。
商標法では、他人のために提供する便益(サービス)のことを「役務」と言います。
つまり、商標は商品やサービスと結びついて使用されるから『商標』と言えるんです。

ややこしいですね
例えば、自動車メーカのマークが雑誌に印刷されていても、そのマークは正確には商標とは言わないです。(でもほとんどの人が商標って呼びます。)
自動車メーカのマーク(標章)が車のエンブレムとして車(指定商品)に表示されている場合、そのマークは商標になります。
商品やサービスは「区分」にグループ分けされている
区分は、世の中のありとあらゆる商品やサービスを第1類から第45類までの45のグループに分類したものです。
第1類~第34類・・・商品に関する分類
第35類~第45類・・・サービスに関する分類
区分は『類』とも言います。
45個の区分は特許庁編の【指定商品・指定役務審査基準 】にまとめられています。
似たような商品・サービスでも区分が異なることがあります。
商標は必ず区分とセットです。
商標登録を申請するときにも、区分(第○類)と記載し、その区分に該当する指定商品名や指定役務名を記載します。
商標の機能は3つある
商標を区別の手段として使用することで、商標は以下の3つの機能を発揮します。
出所表示機能
たとえば、お菓子の袋に商標が付いていないとします。
お菓子の袋はたくさんありますが、中身は見えません。
これだと、自分のお菓子と他社のお菓子の区別がつきません。
そこで、お菓子の袋にマークを付けたとします。
すると、自分のお菓子を他人のものと区別することができます。
マーク(商標)を見れば、お菓子がどの会社のものかを商標が教えてくれるのです。
別のお店でも同じお菓子に同じ商標がついていれば、同じ会社のものだとわかります。
これが、商標の出所表示機能です。
品質・質保証機能
例えば、美容液の箱に商標が付いているとします。
その美容液を買った人はその品質にとても満足し、その商標が付いた商品を今後も信用して買います。
このように、一定の品質や質を保った商品やサービスの提供によって、消費者から信用や信頼が得られるようになります。
消費者が商品やサービスに付けられた商標を見ただけでどのような品質の商品か、あるいは、どのような質のサービスかが分かるようになるのです。
つまり、消費者は商標によって保証された品質を確認してその商品を買ったり、サービスの提供を受けたりすることができます。
長い間に培われた商標の信用・信頼が商品・役務の品質を保証することになるのです。
これが商標の品質・質保証機能です。
広告・宣伝機能
例えば、数あるマッサージ店の中で、以前行ったマッサージ店がとても良くて印象に残っているとします。
テレビ・動画のCM、ポスター、新聞、雑誌などでそのマッサージ店の商標を見ることがあるかもしれません。
その商標を見ると、そのマッサージ店にもう一度行きたい、と思わせることができるのです。
あるいは、ティッシュペーパーがとても柔らかくて使い心地が良かったとします。
たまたまドラッグストアに立ち寄ったときに、そのティッシュペーパーの商標が目に入ります。
すると、その商標がティッシュペーパーの使い心地の良さを思い出させ、また買いたいと思わせてくれるのです。
このように、今までその商品やサービスを利用したことのある消費者に対しては、さらにその信用・信頼を深く印象付けることができます。
もちろん、今までに利用したことのない消費者に対しても、広告などを通じて商品やサービスのイメージを深く印象付けることができます。
これから消費者になるであろう人たちにも購買意欲を持たせることができます。
これが商標の「広告・宣伝機能」です。
商標の種類
商標はいくつかのタイプに分けることができます。
標準文字による商標
特許庁長官があらかじめ定めた一定の文字書体(標準文字)のみによって構成される商標です。
「左横書き」、「全角文字で30文字以内」、「スペースも1文字に含む」という縛りがあります。
文字装飾、色彩、改行、2文字以上のスペースは標準文字として認められません。
図形商標
写実的なもの、図案化したもの、幾何学的模様等の図形のみから構成された商標です。
図形同士を結合した商標もあります。
図形と文字を組み合わせたものも図形商標に含まれます。
文字だとしても図案化されたものは図形商標になります。
記号商標
暖簾(のれん)記号、文字を図案化して組み合わせた記号、記号的な紋章の商標です。
結合商標
異なる意味合いを持つ文字と文字を組み合わせた商標です。
文字、図形、記号、立体的形状の二つ以上を組み合わせた商標も結合商標です。
例えば文字と文字の組み合わせ、文字と図形の組み合わせ、図形同士の組み合わせなどです。
立体商標
立体的形状からなる商標です。
動き商標
文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標です。
ホログラム商標
文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標です。
色彩のみからなる商標
単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標です。
音商標
音楽、音声、自然音等からなり、聴覚で認識される商標です。
位置商標
図形等を商品等に付す位置が特定される商標です。
商標登録の目的とメリット・デメリット
『商標登録』とは?
商標を使用する商品やサービスについて、誰よりも早く願書を特許庁に提出して出願料を払い、審査に合格した後、登録料を納付することで、商標が特許庁に登録されること、です。
商標登録の目的は法的な保護を得ること
商標登録することで、商標権が発生します。
ですので、商標登録することの目的は権利を獲得することです。
商標登録の圧倒的なメリットは、自分の商標を日本国内で独占的に使用できることです。
商標権は自分の商標を他人に使わせないだけではありません。
自分の商標に類似する商標の使用も禁止できます。
他の企業や競合他社に自分の商標を真似させないことができます。
ブランド価値の構築
商標を使用することで、商品やサービスが他社のものと区別されるようになります。
さらに、商品やサービスが信頼されるようになると、商標が消費者に対して信頼性や安心感を与えるようになります。
商標に信用が化体(かたい)する、と言います。



化体とは、形をかえて他のものになることです。
つまり、商標を見れば信用できると思わせることができるようになります。
例えば、
「この商標が付いた服は着心地が良い」
「この商標が付いた金庫は絶対に壊されない」
という信用です。
消費者は商標を通じて意識的あるは無意識的にブランドを識別したり、信頼できる商品やサービスを選ぶ傾向があります。
商標登録は、他の商品やサービスとの区別を図り、消費者に特定のブランドや製品を識別させるための強力なツールとなります。


商標の資産化
商標は重要な資産になります。
商標が付いた商品やサービスが信用されるようになれば、商標の持つ価値が上がります。
商標の価値が上がれば、商品やサービスの値段そのものを上げることが可能になります。
また、ライセンス契約やフランチャイズ契約にも利用できるようになります。
あるいは、銀行からの融資に活用できるようになります。
将来的には、商標権の売却や他社への資本参加の際にも利用できるようになります。
商標は収益を生み出すことができる大切な資産になります。
商標登録のデメリット
1つ目は、費用が掛かることです。
権利を取得するためには避けられません。
2つ目は、更新登録をすることで権利を維持する場合、費用だけでなく、更新期限の期限管理が必要なことです。
商標権の存続期間は5年間または10年間です。
長い年月を経て、更新できる期間は約5年後または約10年後のたったの半年間です。
この期限管理が面倒です。
商標登録を受けることができない商標
商標登録は「独占的に使用可能なお墨付き」を与えるものです。
ですので、以下のような商標は商標登録を受けることができません。
また、特許庁では、以下の事項などが法律に基づいて審査されます。
審査によって商標登録させることができないと判断されたとしても、いきなり一発不合格にはなりません。
まずは出願人に拒絶理由通知書が通知されます。
拒絶理由を解消するチャンスは少なくとも1回は必ずあります。
商標登録手続きの流れ
商標登録の全体の流れ
特許庁に商標登録出願する場合のおおまかな流れは以下のようになります。
どのような文字・マークをどのような商品・サービスに使うかを決めます。
商品・サービスがどの区分に該当するのかを確認します。
自分が商標登録出願しようとしている商標やそれに似た商標が特許庁に登録されていないかどうかを調べます。
もし既に登録されていたら、注意が必要です。
自分が商標登録できないだけでなく、その商標を無断で使ってしまうと、他人の商標権を侵害してしまいます。
願書を作成し、特許庁に出願します。
提出の方法は、特許庁への持ち込み、郵送、インターネット出願があります。
特許庁に出願すると、特許庁で順次審査されます。
審査期間は、6ヶ月~14ヶ月です。
拒絶理由がある場合は拒絶理由通知書が届きます。
拒絶理由を解消するために、意見書や補正書を期限内に提出します。
審査に合格した後、期限内に登録料を特許庁に支払うことで特許庁に商標が登録されます。
商標登録により、商標権が発生します。
商標登録の流れは、個人で出願する場合も、弁理士に依頼する場合も、ほとんど同じです。


特許庁での審査の流れ
商標登録出願は、まずは書類の形式が正しいかどうかの方式審査が行われます。
その後、商標が登録要件を満たしているかどうかなどの実体審査が行われます。
特許庁の方式審査官が、商標登録出願の書類の様式が規定通りかどうかをチェックします。
商標そのものを審査する実体審査はされません。
書類などに不備や誤りがある場合は、実体審査の前に修正を求める通知が出願人に送られます。
特許庁の商標審査官が、出願に記載された商標が登録要件を満たすものであるかを審査します。
商標登録出願が登録要件を満たしてる場合は審査合格です。この場合は「登録査定」が通知されます。
登録要件を満たしていない場合は拒絶理由が書かれた「拒絶理由通知書」が通知されます。
拒絶理由を解消できれば登録査定が通知されます。
拒絶理由を解消できなければ「拒絶査定」が通知されます。
商標登録にかかる費用
商標登録を行うためには、特許庁に願書を提出するとき(出願料)と、登録査定を受けたとき(登録料)の、2回の支払いがあります。
出願料(印紙代)
区分数が1~5の場合は以下の表のようになります。


願書を郵送する場合や特許庁に願書を持ち込む場合は、願書に特許印紙を貼り付けます。
書面(紙の願書)で手続する場合は「電子化手数料」の納付が別途必要になります。
電子化手数料
電子化手数料とは、特許庁に対して書面(紙)で手続きする場合に書面を電子化するための手数料です。
書面(紙)で手続きした場合、電子化手数料の納付は義務です。
商標登録出願の願書が1枚の場合、電子化手数料は、
2,400円+(1枚×800円)=3,200円
となります。


登録料(印紙代)
一括納付(10年分)で区分数が1~5の場合は以下の表のようになります。


分割納付(前半5年分、後半5年分)で区分数が1~5の場合は以下の表のようになります。


商標登録の効果と権利
商標権が及ぶ範囲
商標登録が完了すると、商標権が発生します。
商標権者は、指定商品または指定役務について登録商標を独占的に使用できます(商標法第25条)。



これを『専用権』と言います。
登録商標とは、商標登録を受けている商標を言います。
また、第三者が、
指定商品または指定役務と同一の商品または役務に自己の登録商標と類似する商標を使用すること、
指定商品または指定役務と類似する商品または役務に自己の登録商標と同一または類似の商標を使用すること、
を排除することができます(商標法第37条1号)。



これを『禁止権』と言います。
禁止権は、
商標同一、指定商品(指定役務)類似の場合、
商標類似、指定商品(指定役務)同一の場合、
商標類似、指定商品(指定役務)類似の場合、
の各場合に商標権侵害を主張できる権利の範囲です。
専用権と禁止権の権利範囲を表にすると以下のようになります。


◎と〇の場合は商標権の効力が及ぶ範囲です。
◎は自分の商標権(専用権)の効力が及ぶ範囲です。
〇は、第三者の商標の使用が制限される範囲(禁止権)です。
×の場合は商標権の効力が及ばない範囲です。
×の場合、第三者の商標の使用は権利侵害にはなりません。
商標権の存続期間
原則、商標権の存続期間は、設定の登録の日から10年です(商標法第19条)。
設定の登録の日とは、期限内に登録料の納付した日です。
存続期間は、
一括納付を選択した場合の存続期間は10年間
分割納付を選択した場合の存続期間は5年間
です。
更新手続き
商標法は、事業者の営業活動によって商標に蓄積された信用を保護することを目的としています。
しかしながら、商標の存続期間は10年に区切られており、永久に存続するわけではありません。
そこで、特許庁に存続期間の更新登録の申請(更新手続き)を行うことで(商標法第20条)、商標権を半永久的に存続させることができます。
更新登録料についても分割納付が可能です。
例えば、
存続期間10年→更新・存続期間10年→更新・存続期間10年→・・・
存続期間10年→更新・分割納付前半5年→更新・分割納付後半5年→更新・存続期間10年→・・・
分割納付前半5年→分割納付後半5年→更新・分割納付前半5年→更新・分割納付後半5年→・・・
分割納付前半5年→分割納付後半5年→更新・存続期間10年→・・・
のような様々なパターンがあります。
一括納付(10年分)で区分数が1~5の場合は以下の表のようになります。


分割納付(前半5年分、後半5年分)で区分数が1~5の場合は以下の表のようになります。




商標権の侵害と対処法
商標権侵害の概要
登録商標を使用する正当な権利や理由のない者が、以下の行為を行った場合は商標権を侵害します。
同一の商標を同一の指定商品または指定役務に使用する場合(専用権◎)
同一の商標を類似の指定商品または指定役務に使用する場合(禁止権〇)
類似の商標を同一の指定商品または指定役務に使用する場合(禁止権〇)
類似の商標を類似の指定商品または指定役務に使用する場合(禁止権〇)


よくある商標権の侵害は、似たような商標を同じ商品に使う場合です。
例えば、以下のような場合でも商標権の侵害になる可能性があります。
商標権侵害への対処法
商標法に基づく対処方法
差止請求
権利を侵害する者または侵害するおそれがある者に対して、侵害の停止または予防を請求することができます(商標法第36条第1項)。
差止請求する際に、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害行為に供した設備の除却、その他の侵害の予防に必要な行為を併せて請求することができます(同条2項)。
信用回復措置請求
故意または過失によって商標権を侵害した者に対しては、損害の賠償に代え、または損害の賠償とともに、業務上の信用を回復するのに必要な措置を請求できます(商標法第39条、準用する特許法第106条)。
例えば、新聞紙上に謝罪広告を掲載することなどです。
民法に基づく対処方法
損害賠償請求
商標権侵害によって権利者が受けた損害については、権利を侵害した者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できます(民法第709条)。
不当利得返還請求
不当に利得を得た分の返還を請求することもできます(民法703条・704条)。
不当利得返還請求の時効が取引終了時から10年ですので、損害賠償請求の時効が切れた後でも請求できることがメリットです。
刑事罰
刑事告訴することで権利を侵害した者に刑事罰を与えることができます。
専用権(◎)を侵害した場合
10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(商標法第78条)
禁止権(〇)を侵害した場合
5年以下の懲役または500万円以下の罰金(同法78条の2)
法人の代表者、法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業者が違反行為をした場合、両罰規定によって法人にも「3億円以下の罰金」または「1億円以下の罰金」が科されます(商標法第82条1項)。
商標権の効力が及ばない範囲
商標的使用態様によっては、商標権の侵害に該当しない場合があります。
侵害に該当するかどうかは、以下も考慮しなければなりません。
商標的使用かどうか(判例・学説)
商標の使用かどうか(商標法第2条3項)
商標権の効力が及ばない範囲かどうか(商標法第26条1項)
権利者が権利を有しない者の使用の差止等を請求するためには、権利を有しない者の使用する商標が単に形式的に商品等に表されているだけでは足りません。
権利を有しない者の使用する商標が、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられている必要があります。
商標登録後は、無権利者との戦いが始まります。
その戦いは、自分の商標権を放棄するまで続きます。
自分の権利を自分で守ることができるように、可能な限り、知識武装してください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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